田所 雅之著、 起業の科学 スタートアップサイエンスを読んだ。スタートアップの必携書とされているらしい本書では、起業から成功までのステップを以下のように分解し、それぞれのステップでの無駄を省くためのノウハウを網羅的に紹介している。
- Idea Verification アイデア検証
- Customer Problem Fit
- Problem Solution Fit
- Product Market Fit
- Transition to Scale ユニットエコノミクス健全化
Idea Verification アイデア検証#
アイデア検証のステップでは、潜在的な顧客が抱えているはずの課題を常に意識したアイデアの検証方法について述べている。課題以外の多くの要因、例えばソリューションを先行させてプロダクトを作ってみたりだとか(俺はこの技術を使ってビジネスしたいんだ!)、すでにレッドオーシャンになった市場にあえて飛び込んでみたりだとか(優等生的なアイデアだがそれはすでに誰かが手がけている)、過剰に詳細な事業計画書を作ってしまうことなど、多くの実例の失敗例が列挙されており、読み物として単純におもしろい。安易なゴーサインを出さないためにはどのようにアイデアを検証し磨きぬけば良いのかを体型的に理解できる。
アイデア検証のステップで犯しがちなバッドノウハウを具体的に列挙している点も本書の特筆すべき部分だろう。「PEST分析」や「リーンキャンパス」といったスタートアップ固有の分析手法やメソッドを知るためのリファレンスとしても有効に思える。
Customer Problem Fit#
Customer Problem Fit とは、いかに顧客の課題にフィットさせていくか、というステップのことらしい。課題への認識を深めていく中でバイアスによって課題をすり替えてしまうのが最悪で、それを防ぐために顧客像(ペルソナ)の作り方について述べられている。
インタビューの方法について分量が多く割かれているのが印象的で、いかに顧客とコミュニケーションを行い、どのようにフィードバックを得るかについて書かれている。最低限で何人くらいにインタビューすれば良いのか具体的な数字も与えてくれているので、本書の内容を実践する読者は勇気づけられると思う。
Problem Solution Fit#
Problem Solution Fit の章でやっと課題とマッチするソリューションの検証にフォーカスする。開発者の目線だと、やっと手を動かせるステップ。この章では、いかに寄り道をしないプロトタイピングを経て機能を絞り込んでいく流れを把握できるだろう。また、組織内で必要とされる具体的な役割が明らかになってくるのがこのステップで、共同創業者の選定(チームビルディング)の方法についてもコラムで言及されている。起業に強い執着を持っていない人(私とか)がこのコラムを読むとダメ出しされているように感じるので正直気分が落ち込むが(それならそもそも読むなという感じだが)、共同創業者やチームメンバーのピボット(方針転換)は不可能または難しいので、このコラムの内容の重要度は大きいと思う。
Product Market Fit#
Product Market Fit がスタートアップとしての最初のゴール。この章では、MVP (Minimum Viable Product, 実用最小限の製品)を作って市場に出すこと、その次にどのように短いサイクルで MVP を分析して改善し再度市場に投入するかについて書かれている。この章では、いかに UX(ユーザーイクスペリエンス) を改善し続け、顧客を離脱させず熱狂的なファンを作るかについて、シンプルに記述されている印象だ。UX についてはおそらくこの章では書き足りないトピックだろうから、他の専門書のリファレンスが欲しいところ。
なお、この章の最後でもチームビルディングについて述べられており、チームメンバーの資質(メンタル、学習能力、etc.)が大事とされていてやっぱり凹む。
Transition to Scale ユニットエコノミクス健全化#
Transition to Scale でやっと成功の手前に到達。顧客を単位として、1人から得られる利益をいかに健全化するかについての理論が述べられている。主にマーケティングにフォーカスしている章として読んだ。このステップでスタートアップから「普通の企業」として安定的に利益をスケールしていく組織に転身していくことになる。
本書は有名なプレゼンテーションのスライドを元に構成された本とのことで、訴求力の強い写真・イメージが散りばめられており強いメッセージを感じる。しかしながら、繰り返しが多く冗長さを感じた。「科学」を標榜する以上索引なども欲しい。