私が住んでいる滋賀県の米原市には山室湿原と呼ばれる小さな湿地があって、季節に応じてサギソウやミミカキグサの仲間、ハッチョウトンボなどを観察できるお気に入りのスポットだ。米原市指定天然記念物になっていて保全されている。この中の一部のエリアが葦毛谷と呼ばれていて、かつて愛知県の葦毛湿原からサギソウなどが移植されたためそう呼ばれているらしい。4月の初めは車で静岡を目指していて、気になっていた葦毛湿原の近くを通過していることに気づいて立ち寄ってみた。
まだまだ寒くて花はほとんど咲いておらず、ハルリンドウとショウジョウバカマがポツポツ見られるくらい。その他はカタバミの仲間やクサイチゴなどが咲いていて、図鑑を見ながらクサイチゴの名前を調べていた小学生に名前を教えるなどのお節介をした。
葦毛湿原は行政や市民団体が積極的に色々な保全活動を展開しているようで、啓発ポスターがあったり、継続的なモニタリングがされていたりするようだ。
以前葦毛湿原にサギソウの園芸品種の球根が撒かれていたことがニュースになり、 Twitter の生物クラスターを中心に炎上していた。
中日新聞 - 植物持ち込まず生態系守れ 豊橋・葦毛湿原に園芸種のサギソウ
サギソウの遺伝的撹乱については、後にこんな研究のプレスリリースも出ている。
神戸大学 - 野生のサギソウ生育地で栽培品種由来の遺伝子を検出 遺伝解析から明らかになった、遺伝的撹乱の実態と拡散リスク
希少な湿地に園芸品種の球根を撒くのは遺伝的撹乱そのものだ。 神戸大学の論文はオープンアクセスではなかったのでアブストラクトしか見れなかったけど、サギソウのケースでは園芸品種由来の遺伝的に障害のある個体の遺伝子が地域の個体群内で自由に拡散することが分かったらしい。これが具体的にどのようなリスクの形をとって生物多様性に影響するのか分からないけれど、サギソウとその周辺の生物群集に大きな影響を与える可能性があると言って良さそうだ。
サギソウは見た目が姿が美しくて大変人気のある山野草だから、保全活動家が球根を撒きたくなるのは分からないでもない。科学的なバックグラウンドを軽視したボランティアの暴走はありふれていて、行政の担当者やコミュニティマネージャーは市民の生きがい活動と保全のバランスに腐心する。